自動車ディーラーなどの損害保険の大規模乗合代理店では、店舗ごとに「推奨商品」を決めるのが一般的だったが、2026年春にそれができなくなる。金融庁がこのほど公表した「2025年保険モニタリングレポート」によると、自動車ディーラーなどから制度変更に懸念の声が多く上がっていることが分かった。詳細なルールは金融庁が夏以降に自動車業界などと調整に入るが、難航する可能性もある。
レポートは金融庁が監督権限を委任する各地方財務局と連携し、保険業界にヒアリングしたもの。対象社数は明らかにしていない。
懸念の理由については「推奨商品以外の事務に精通していない」「自動車保険の商品に差異がない」「システム上の制約」を指摘する声が多かった。金融庁はリポートの中で「顧客本位の業務運営の観点から、実務上どのような対応が望ましいかについて、関係先との対話を経て明確化する必要がある」としている。
この問題は、旧ビッグモーターの自動車保険金の不正請求問題がきっかけになった。同社では、店舗ごとに推奨商品を決めていた。いわゆる「テリトリー制」だ。事故を起こしたユーザーを自社の整備工場にどれだけ〝誘導〟してくれたかを損害保険大手4社に競わせ、その結果で各店舗で扱う推奨商品を決めていた。こうした慣習が結果的に顧客の利益を後回しにしていた。これが、顧客への「誠実義務」を金融事業者に課した改正金融サービス提供法(金サ法)などに抵触するとされた。テリトリー制は、自動車業界で一般的な慣習だった。
保険業法の施行規則(省令)では、損保代理店の都合で推奨商品を販売できたが、来春からできなくなる。金融庁はこの施行規則を変更する。
このため、例えば乗合代理店として3社の保険を扱う場合は顧客の意向を正確に把握して販売する義務がある。そのためには3社の商品に精通する必要がある。乗合代理店を名乗るのであれば、それが本来の姿だが、自動車ディーラーの現場では人手不足などで徹底できていなかった。そこを各損保がカバーし「過度な便宜供与」とも指摘された。
自動車業界はこの制度変更に懸念を示してきた。現場の負担が増えることなどを理由に挙げる。顧客が特定の会社にこだわらなければ、従来の推奨商品を販売したいのが本音だ。ただ、そうなると事実上の「推奨商品決定権限」を損保代理店が維持できる。「代理店と、指導・監督する損保側の立場が逆転したままだと、旧ビッグモーター問題の構造は変わらない」(金融審議会ワーキンググル―プ委員)と指摘されてきた。
代理店が顧客の意向をどこまで把握したのか、顧客が本当に「どの商品でもいい」と言ったのかの検証も難しい。金融庁は記録を残すようにする方針だが、実効性は不透明だ。金融庁は夏以降に「監督指針」の「比較推奨販売」の部分などの改正作業に入るが、自動車業界とどう折り合いをつけるか注目される。
(小山田 研慈)


















