〈世界の動き〉ウォールストリートジャーナル東京支局長 ジェイソン・ダグラス氏に聞く

日本は技術の国として戦うべき 影響度を増す〝東京発〟の記事

  • 企画・解説・オピニオン
  • 2025年12月16日

 米国の経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の東京支局長にジェイソン・ダグラス氏が7月に着任した。「時差」を埋める間もなく、石破政権下の日米関税交渉、高市政権の誕生で日本は大きく揺れ動いた。「赴任してから短期間でこんなに、日本の政治の記事を書くとは想像していなかった」と振り返る。安全保障や経済をめぐって東アジアの情勢が混沌としてきた。東京発の記事は影響度を増している。

 WSJの有料購読者数は460万人以上。メディアの中では紙からウェブに主軸を移した成功例とされる。複数の国内大手メディアや地方紙とも連携している。

 高市首相とトランプ米大統領の11月下旬の日米電話協議を巡り、WSJはトランプ大統領による台湾問題への「助言」を報じた。国内メディアは「一部報道によると」という引用を繰り返した。木原稔官房長官の会見でも質疑の対象になった。WSJの報道は自社の有料購読者という枠を越えて一気に広まった。

 「オンラインの活用で、時差・国境がなくなった。短時間でたくさんの情報が収集でき、発信して、瞬時に反応が分かる。もちろん、情報の真偽を確認することが今まで以上に重要だ。何が本当かということを常に考えていないといけない仕事になった」

 日米の関係性について書くことは必須だ。高市首相の就任直後の10月27日には、トランプ大統領が来日。「日米の関係の中でも特に投資イニシアティブ合意(計5500億ドル=約80兆円超)の行方に注目している。高市首相とトランプ大統領の個人的な関係についても、表面的、政治的な妥協を越える何があるのかを見極めたい」と話す。

 大統領の来日中、両国首脳は「まるで映画『トップガン』」のような場面も演出した。

 「私たちが取材を通して見えるのは、双方ともきちんとしたベースがある上でのワーキングリレーション(関係)がとれているということ。貿易面では摩擦は確かにある。今の米国は、日本にきちんと向き合っていると感じている」

 前任地のシンガポールでは中国経済、世界貿易などの取材がテーマだった。アジアでの勤務が続く中での大きな関心事は「トランプ大統領がどれだけアジアの安全保障にコミットメントしたいと思っているのかどうか」という点。

 「これがよく分からない」といい「アジアで働くわれわれが徹底的にウオッチし続ける」と注目する。

 自動車業界への関心も強い。シンガポールでの在任中も「BYD、中国の電気自動車(EV)が目に見えてマーケットを広げていた。勝負するなら価格か技術。価格の面で中国に対抗するのは非常に困難であり、やはり日本は技術の国として戦っていくしかないし、そのフィールドでは(日本は)負けない」とみている。

 〈プロフィル〉 ジェイソン・ダグラス 北アイルランドの出身。英国のウイリアム皇太子、キャサリン妃の母校でもあるスコットランドのセント・アンドリュース大学を卒業後、地元の小さな新聞社に週に1回勤務した。「酔っ払い運転の裁判」といった記事の執筆から記者生活を始めた。記者経験を積みながらキャリアアップしていった。

 2012年からWSJの特派員になり、ロンドンを拠点にユーロ圏の財政危機、英国のEU離脱などを取材した。シンガポール勤務を経て25年7月から東京支局長。インタビューしてみたい人は「高市早苗首相、トヨタ自動車の豊田章男会長、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長」という。休日は7歳の息子とのひと時を楽しむ。自転車が趣味。

 (高橋康弘・専務取締役)

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